肘の靭帯損傷
O君は、ハンドボールの練習中、相手のシュートブロックに入った時に、ボールに手がはじかれ、肘が外へ反り返ってしまったため、肘の靭帯をケガしました。靭帯は、骨と骨をつなぎ関節を形作っています。また靭帯には関節の可動域を制限する働きもあり、今回損傷した肘内側側副靭帯は主に肘関節の外への動きを制限する働きをします。O君は、ケガをしてから2週間ギプス固定をして、靭帯を安静に保ちました。その後、リハビリが開始されました。ギプスが外れた直後は、肘関節の動きが悪く、関節が硬くなっていたため、靭帯に負荷を加えないように可動域訓練中心に行いました。現在は、受傷後5週経過しましたが、肘の可動域は健側と同様になってきました。筋トレは損傷した肘の靭帯の負荷を軽減させるための筋肉(尺側手根屈筋、浅指屈筋)を鍛えるトレーニングを主に行っています。(写真②③)





最後の大舞台直前の骨折、手術、リハビリ







足の小指の骨折






膝蓋骨脱臼(手術例)








成長期のケガ
こんにちは。理学療法士の臼井友乃です。
今回は、平成28年から令和3年まで通院していたA君を紹介したいと思います。通院開始当初は小学5年生でした。この春めでたく希望高校に合格し、強豪野球部に入部しリハビリ終了となりました。
小学5年生時は、両アキレス腱炎で野球を続けながら治療しましたが、痛みは治まるどころか、その半年後には第5腰椎分離症が見つかり、腰コルセットを装着しなくてはなりませんでした。A君はこの5年間に、「アキレス腱炎」「腰椎分離症」「恥骨結合離開」「リトルリーグショルダー」「膝蓋大腿関節障害」「肘頭疲労骨折」と、ほぼすべての関節のケガを経験したと言っても過言ではないでしょう。
ケガの発生した状況のことを受傷機転といいます。「いつ、どこで、何をしていて、どのように」受傷したか、痛みが出現したかをA君のそれぞれのケガの受傷機転を表1として、まとめました。

表1のように、A君の受傷機転は、特別な出来事があったわけではなく、いつもの練習内容であっても発生していました。また、野球の練習のみでなく、体育の授業や運動会・持久走大会など学校行事の参加が加わり、運動量の調節が難しかったです。運動能力は高く、何事にも100%以上の力でやろうとする真面目なA君は、疲労が蓄積しやすかったことが想像できます。
成長期であったA君の身長は、142㎝から170㎝まで伸びていました。(図1)
また、筋力もほぼ2倍に増えていきました。(図2)


A君は、いわゆるPHA標準化成長速度曲線(図3)で言えば、小5~6年生がTake off ageにあたり、以後フェーズ2の成長期のスパート期に当はまります。
PHA標準化成長速度曲線は、身長の伸び度合で、発達段階を4つのフェーズに分けています。

スポーツ界では育成選手に対して、適切にトレーニングするために、その選手の成長度合いを把握するために利用されています。フェーズ1では基礎体力の養成、フェーズ2では全身持久力の強化、フェーズ3では筋力強化が有効とされ、フェーズ4では成人同様となりトレーニング制限がなくなるとされています。もちろん、各フェーズ中にそれだけを強化するわけではありませんが、能力をよりよく発達させるタイミングを利用します。
ケガの面からみると、フェーズ2は身長が急速にのびるため、骨と筋・腱の成長に不均衡が生じやすく、成長期に発症することで有名なオスグッド病などを引き起こしやすい時期です。また、フェーズ3では筋の柔軟性が急に低下することも報告されており、この時期までにしっかりとストレッチなど行う事がコンディショニングとして重要であることがわかっています。
「成長痛」は、成長期(幼児期、学童期、思春期)の子供が、特別な原因がないにも関わらず、足(特に膝)に痛みが生じる状態の総称(呼び名)として使われます。夕方から夜間に痛みが生じるケースが多いですが、朝には何事もなかったように痛みが消失することが多いようです。つまり、筋肉、関節、骨などには異常を認めません。それらに異常がある場合は、「成長痛」とは呼ばず、別のケガとして分類されます。例えば、骨端線が痛くなる骨端症が代表的なものです。成長期は、筋肉の伸びが骨の成長より遅いため、筋肉が骨についている部位を引っぱるような状態になり痛みが生じます。筋肉が骨についている部分は、成長軟骨板という組織でできており、骨を増殖しながら大きくする部分で、レントゲン上では骨端線と呼んでいます。この部分には、新しく骨になるための“成長軟骨”と“骨端核”とよばれる部分が存在し、骨の強度が弱いです。この時期に、激しいスポーツによるオーバーユース(使いすぎ)によるストレスが、痛みや成長障害を起こすことがあるのです。例えば、踵に発症するものを踵骨骨端症と呼び、別名シーバー病と言います。痛みや腫れが問題になり、「成長痛」と一括りにされることがありますが、きちんと病院受診を行い治療することが必要です。
A君は小学校6年生で「第5腰椎分離症」の診断がつきました。「腰椎分離症」は、腰椎の後方部分が疲労骨折するケガです。主に10代の成長期に多く発生しており、一番下の腰椎(第5腰椎)に好発します。


A君は、腰コルセットを装着し、野球練習を行っていましたが、分離部の骨は癒合しませんでした。

以来、走り込み練習などが多くなったりすると腰痛を再燃させました。もちろん体幹筋のトレーニングは自主トレでもリハビリ時でも実施し続けていました。
分離症が治っていなくても日常生活に支障が出ることは少ないようです。腰痛を繰り返すことがありますが、強い痛みが出現しないよう、腹筋・背筋の強化などが大切です。また、上体をそらした時に痛みが生じることがあるので、背筋トレーニングは注意が必要です。分離した骨が前方に滑らないよう(分離症から分離すべり症に進展しないよう)、しっかり腹筋のトレーニングをすることがポイントになります。
この4月に野球の強い高校に入学し、帰宅時間が遅くなっているようです。まずは長い練習時間に耐えられる体力が必要でしょう。今までのリハビリで、ストレッチやトレーニングなどセルフケアの仕方を学んでいるので、きっと乗り越えて、チームの主力になってくれると確信しています。長い年月、A君の努力の持続は尊敬に値しますし、病院送迎してくれた親さんの協力にも脱帽しています。この通院が、逆に人生のプラスの経験になり、今後の活躍に一役担えることを願います。お疲れ様でした。
